八部咲きになった梅園に立ち寄ってみた。
仕事が終わった彼女と待ち合わせて“梅を観に行こう”ってことでやってきた。
今年は2月になっても雪がちらつくことが多く、夕暮れ時ともなればさすがに一層空気が冷たく感じられる。
「夕方なのに結構人が来てるね」
確かに彼女の言う通り梅の開花に春の訪れを感じたいがためか、多くの人が梅園の一部をライトアップして、照明に浮かび上がった梅を観に来ている。
残照を背景に灯りに照らし出された梅を見たり、行き交う人達を眺めながら彼女と並んで梅園をゆっくり歩いた。

ふと彼女の視線を感じて・・・
「んっ?なに?」
と、彼女の方に顔を向けた。
すると、いかにも咎めるような目線と不機嫌そうな彼女の表情が。
目は口ほどにモノを言うとは言うが、この場合はやっぱり口で言ってもらわないとわからないと思い、何も言わない彼女に
「どうした?」
と、再度聞いてみた。
「あなたは何を観に来たわけ?」
「もちろん梅だよ」
「へぇ〜 梅ねぇ。。。さっきから短いスカートをはいた女の子の脚ばっかり見てるのかと思った。あのね・・・女ってね、男の人が自分を見る視線に男の人が思っている以上に敏感だし、それと同じようにあなたの視線にも敏感なのよね。あなたがどこを見ているのか私が気付かないと思ってるわけ?」
図星だった。確かに私は、短いスカートの女性の脚を目で追っていた。
こんな短いスカートで、こんな夕暮れ時に寒くないかなぁ〜と思ったりしていたのだが・・・それは、ほとんど言い訳。
悲しい男の性(サガ)というか本能というか・・・どうしても目がいってしまう。
なんて思っていると、彼女が続けて言った。
「いつもそう。私と一緒に歩いていても、ミニスカートはいた女の子とか体のラインが出た女の子とかとすれ違ったりするとよく見てるし、首が捻じ曲がっちゃうほど振り返って見てることだってあるくらい。そういうのって嫌だって前にも言ったことあるよね!あなたの観方で、その女の子がどれくらいあなたの好みなのかも度合いがわかるようになってきちゃったもん 」
「首が捻じ曲がるって・・・大袈裟だなぁ。。。」
と、言いながら彼女の表情を見れば気温が下がってきて寒くて顔が強張っているってだけじゃなくて、今ままであまり言わなかったことが噴出してきそうな、そんな表情になってきた。
こんな時はちょっと話題を転換するにかぎる・・・と、
「知ってる?男ってさぁ若いときから、自分の彼女に 短いスカートはくなとか、男の目を引くような服を着るなとか言う奴と、真逆に ミニスカートはこうよ って言う奴とはっきりと分かれると思わない?」
彼女は話しをはぐらかされるのかもという疑いの気持ちをまだ少し顰めた眉に表しながらも、何かに思いを巡らしはじめたような表情で・・・今まで過去の彼がどうだったのかと思い出そうとしているのかもしれないが・・・
「・・・・・。そう言われてみれば・・・そうかな」
と、話しに乗ってきそうな返事を。
彼女の元彼達がどうだったのかにも興味はあるところだが、それはまた飲んだ時にでも探るとして・・・今は、楽しい観梅気分を回復することに専念すべく話しを続けた。
「でね、その彼女に短いスカートとかはくなって言う男の多くは、彼女と一緒のときに他の女に目をやったりしないけど、彼女にミニスカはこうよって言っちゃう男は、彼女が一緒のときも他の女に目をやったりしちゃうって奴が多いって統計があるんだよ。彼女のミニスカを嫌がる男って、確かに真面目そうだけど、それってちょっと窮屈じゃな〜い?」
「・・・・・。そうかも・・・。でも、なんか自分を正当化してな〜い? そんな統計、ホントにあるの?」
「あるよ!学生時代のサークルの飲み会で、自分の彼女にミニスカートをはかせるか否かってことが議題になって、皆んな挙手してとった統計だから間違いない」
彼女は、ちょっと呆れながらも笑うしかないって表情ながら・・・
「そんなことだと思った。でも、やっぱり、私と一緒にいるときに、あなたがあからさまに他の女の子を見つめたりするのは嫌だし、私の顔を見て話していてくれたほうがずっと嬉しいな。それって当たり前だよね。ちゃんと覚えておいてよ」
と、言うべき事は言っておかないとって感じで言った。
私は、収束方向に向かったことに安心し、元気よく応えた。
「はい!気をつけます!」
「どうだかね・・・・。 ねぇ、温かいモノ飲むでしょ?あの自販機で買ってくるけど、コーヒー?」
「うん。ありがと。じゃ、ここで待ってるから」
と、ライトアップした梅園の中にあるベンチに腰を下ろして。30mほどの距離にある自動販売機に向かっていく彼女の後姿を見送った。
確かに私は街行く女性に目を奪われる。それは男の性(サガ)と言ってしまえばそれまでなのだが・・・やはり、綺麗な女性は綺麗だから目がいってしまうし、綺麗な脚にも目がいってしまう。
これから春に向かっていく季節、徐々に女性たちの装いが春めいて来る季節。そんな季節の女性の春めいた装いが私は大好きだ。
きっとまた彼女に文句言われながらも、睨まれながらも、春の軽やかな装いの女性たちを見つめてしまうんだろうなと考えながら・・・自販機に向かう彼女の後ろ姿を、自販機で無糖のコーヒーとおそらくココアかカフェオレの類を買っている彼女の姿を、缶が熱いのか持った缶を左右の手に持ち替えながら早歩きでこちらに向かってくる彼女の姿を、まだ寒いのに私の好みに合わせてちょっと短めのスカートをはいて歩く彼女の姿を・・・
そう、ずっと彼女を見つめていた。
彼女の姿を眺めている時には他の女性には目が向かない。
“やっぱり・・・いい女だよなぁ・・・。”
と、なんだかとても嬉しい気分になって、随分と気分を改善してくれたように見える彼女がいつもの笑顔で“はい”と差し出してくれたコーヒーを受け取った。 
お気付きの方もいらっしゃると思いますが・・・この一文は、短編ながら男の気持ちをよく表したアーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』を下敷きに書きました。
随分前に読んだのですが『夏服を着た女たち』は大好きな短編です。男と女の潜在的な性の違いから生じる男と女の気持ちの交錯を簡潔に描いた傑作だとい思っています。
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