前につき合っていた女性と『シルク』を観に行った。
彼女とは何年か前に別れて以来、友達つき合いが成り立っていた。
いわゆる元カノではなく、そういう言い方をするなら元々カノとでも言えばよいのかもしれない。
時として、お茶したり、飲みに行ったり、電話でだったりして、互いの恋愛事情も話せる貴重な異性の友と言える唯一の女性の彼女と、『シルク』を観ることになったことに特別な意味はない。ただ、電話で話していて“観たいね〜”ってことになっただけのことだった。
美しい映画だった。映像もSakamotoの音も美しかった。この手の映画にありがちな陳腐な日本人感や映像表現も目クジラたてるほどではなく・・・まぁ、近年は外国映画でも中国だか台湾だか国籍不明の謎の東洋の国のような日本の描き方はさすがに少なくなってきてはいる・・・日本の俳優人もスタッフもきっとかなり自国主張したんだろうなと、感じられた。
そもそも私がこの映画を観たいと思ったのは、劇場で予告編を観てから・・・頭を使わずに美しい映像と音楽に浸る時間があっても良いかな・・・という、この映画の関係者に対してはとても失礼な気分からであり、ストーリーや映像に内包されたものに期待はしていなかった。
しかし、“あなたの幸せのためなら ためらわずに私を忘れて”というあの手紙・・・もし観てない人がこの文章を読むことを考えて、若干婉曲的な表現をしますが、観た人には十分通じると思って記します・・・の真実を知ってから、今までシートにズッポリはまって心地良くスクリーンを見上げていた私は、シートから少し背を離して身体を起こしていた。
“彼女はどんなつもりであの手紙を書いたのだろう?いや、正確に言うと、どんな風にその手紙を書くことにした気持ちに至ったのだろう?”と考えながら、その確たる自分なりの意見を固められずにエンドロールを迎えた。
単に彼を我が手に取り戻すためだけでは、あの手紙にはならないだろう。
だが、身は我が元にあっても心が遠い異国にある 彼の心 も取り戻したいという一面は確かにあっただろう。それも、美しく完結させてやる思いやりさえ感じられる方法で・・・。
胸掻き毟られながら、その思いやりが怒りや嫉妬心というドロドロした感情を凌駕したとしたら・・・それはやっぱり愛ってことになるのかな。。。などと獏と考えながら映画の後のコーヒーを彼女と飲むことにした。
コーヒーを飲みながら、彼女はいとも簡単に言った。
「えっ?あの手紙が異国の地から届いたものじゃないって、すぐにわかんなかったの?」
「うん。。。」
彼女がちゃんと見通していたことにやや驚きながら、頷きだけで返事した。
「まぁ。。。男の人はそうかも」
と、事無げにいう彼女にまた少し驚きの度を加えて・・・
「なに?それ?」
と、典型的な聞き手にまわる姿勢の問いを発した。
「まぁ〜よく言えばロマンチストとも言えるけど、女を良くも甘くも見てるかもね」
と言って私の目を下から覗き込むようにして彼女は続けた。
「彼女が書いたというより、彼女の意に共感したマダム・ブランシュが彼女の意をくみ取って書き上げたかもしれないよね。マダム、目が潤んでいたでしょ。あの表情でそれもありかな と思ったの」
「でも、なんで彼女がそんなことをするわけ?」
「きっと彼女も祖国を遠く離れる時に想いを寄せる人ががいたんだと思う。その人を想ってもも意味も甲斐もないことを思い知ったかもしれないし、ことによるとその男に『いつか必ず迎えに行くから』なんて言われて、どうせ無理だとわかっていても待つ心が抑えられずにもがき苦しんだ上に諦めの境地に至ったこととかあるかもしれないし・・・」
「深いね。。。確かにマダムの表情には何か感じたけど、そこまでは考えなかったな〜」
「女ってね、自分の境遇とか、例え過去の想い出であっても共感すると、俄然結びつきの強い関係になれたりすることもあるから。でも離合集散は激しいかも」
と、笑う彼女の顔を眺めながら・・・ホントに彼女と喋るのは楽しい。と、改めて実感していた。
などとぼんやり考えていたら、彼女がまた下から人の目を覗き込むような悪戯っぽい表情で言った。
「ねぇ。私がなんで貴方と別れることにしたか知ってる?って、たぶん言ったことあるよね。貴方が他の女と一緒にいる様子を見かけちゃったからなんだよ。見かけてから少し時間はかかったけど・・・見た瞬間に・・・きっとこの子があの人の新しい彼女になるな・・・と、思ったし、事実そうなったもんね〜」
と、悪戯っぽい目が“さぁ、どう答える???”と挑発的に私の目を捉えている。
聞いてない・・・そんなことははじめて聞いたことだし、おそらく彼女もはじめて口にしたことを十分に心得ての問いかけだ。
さぁ。。。どう答えたものか・・・マダムが読んだ手紙のことについての思索は後回しにして、私は、彼女の問いかけに対してどう答えはきめようかと考えるはめになった。。。
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